先月5月29日の(独)製品評価技術基盤機構(通称NITE)による呼びかけを受け、新型コロナウイルスの消毒目的で学校等にて利用されている「次亜塩素酸水」について、文部科学省が子どもたちのいる空間では噴霧器での散布は行わないよう教育委員会等に通知を行ったことは周知のとおりです。

事の発端であるNITE自身は「弊機構が次亜塩素酸水での手指や皮膚の消毒、及び噴霧利用の是非について何らかの見解を示した事実はない」と報道を否定しております。NITEはその呼びかけの中で、世界保健機構WHOの「“消毒剤”の人体への噴霧や燻蒸による環境表面への使用は推奨されない」という、次亜塩素酸水と名指ししているわけでないこの見解を続けて引用しました。この文脈によって次亜塩素酸水は人体に有害なものであるという印象を与え、一部報道機関がそうであるかのように報道してしまったことは無理もないように思います。

弊社としましては、最近の報道の発端であるNITE自身が報道内容を否定し、先般の呼びかけは中間報告であり、今月中に最終的な報告をするとしているので、それまでは静観するつもりでおりました。しかし、弊社の製品を既にご使用頂いているお客様の中で、これら報道を見聞きし不安・疑問を感じられている方々もいらっしゃるであろうと考え、製造メーカー・販売元としてメッセージをお届けするべきと思い直し、ここに弊社の見解をお示しすることと致しました。

まずこのNITEという独立行政法人は、健康・医療等に関する行政を司る厚生労働省の所管ではなく、経済産業省所管であるということに意味があると考えます。つまりこの度の呼びかけは、次亜塩素酸水自体の有効性・安全性云々よりも、このコロナ禍に乗じて市場にまがい物が出回っている等の事態に対する注意喚起の意味合いが濃いものではないかということです。これは次亜塩素酸水に限ったことではなく、衛生商品全般に言えることですが、特に次亜塩素酸水はその正確な認知が行き渡っていなかった上に、市場でのエタノール製剤の枯渇もあり、急激に注目・期待が寄せられたことで、より出回りやすい状況になってしまったと考えられます。よく言われているのが名称の似ている「次亜塩素酸ナトリウム水溶液」いわゆるハイター等の商品名に代表される塩素系漂白剤です。ちなみに弊社はこの次亜塩素酸ナトリウムも食品添加物としての製品(6%と12%)を取り扱っております。消費者の中で同じモノだと混同、勘違いされて使用されてしまった事例も多いようですが、これを薄めただけで次亜塩素酸水と称して販売しているという酷いモノも実際流通しているようです。現在、次亜塩素酸水は雑貨として販売されているものが殆どであり、こうした背景もそれらを取り締まることを困難にし、また誤解を招く原因にもなってしまっていると考えます。

次亜塩素酸水は、数年前から情報番組などのメディアで、エタノール製剤では対処できないノロウイルス等にも有効であるとして度々紹介されるようになりましたが、その使用の歴史は遡りますと1950年代からあるようで、養豚場や野菜等の生産農家での食品生産物に対する殺菌消毒や、歯科治療における口腔内細菌を整菌・静菌するための洗浄、傷口の消毒等にも、これまで恒常的に用いられております。この半世紀を超える使用の歴史・実績を鑑みても、適正な管理下において、人体の健康被害を及ぼす根拠は見当たらないと考えられます。

今回の報道に対して、次亜塩素酸水の普及を目指す研究者ら有志でつくる「次亜塩素酸水溶液普及促進会議」が6月11日、東京都内で開かれました。その際の会見上にて、三重大大学院教授の福崎智司教授は、空間噴霧による付着菌除去の効果を説明し「濃度を制御して使えば人体に影響はない」 また北海道大名誉教授の玉城英彦氏は、コロナウイルスへの有効性を検証中のNITEと同じ方法による実証実験の結果、次亜塩素酸水により瞬時に不活化したことを明らかにし「帯広畜産大の実験でも同様の結果が出ている」などの知見も発表されました。

微生物制御には「ハードル理論」という概念があります。これは陸上競技のハードルに例えたものであり、一つの手段ではなく、物理的・化学的な複数の手段を組み合わせることで、感染予防効果を高めるという考え方です。マスクの着用、手洗いの徹底、消毒液による手指等消毒などに並んで、次亜塩素酸水の適正な使用を採用しないことによるリスクも考える必要があると考えます。それは教育施設や介護施設など、どうしても人が集まる場面で、主にこどもやお年寄りの方々を無防備に晒してしまう等といったリスクです。

弊社はかれこれ8年以上前からアルコールに代わる次世代型除菌消臭剤として、積極的に提案して参りましたが、このコロナ禍では、次亜塩素酸水はその代用品としての役割を担っているという側面もあります。市場でのエタノール製剤の枯渇という状況下において次亜塩素酸水の使用を控えるよう促すことによるリスクも経産省など行政機関は考慮すべきではないかと考えます。

また、これら報道を見聞きし、役所などで次亜塩素酸水を噴霧していることに対して、喘息など呼吸器系の疾患をお持ちの方から、使用を辞めてくれというようなクレームがあったと聞き及びます。これは無理もないことで、このような過度な不安を煽って心理的負担を強いる要因になってしまっていることに対する責任等も報道機関には感じていただきたいと思います。

もちろん、次亜塩素酸水は除菌を目的に使用される“薬剤”であることを考えなくてはなりません。pHや濃度等の管理は必須です。例えば、プールの水質管理に使用されている塩素剤について人によっては肌荒れや目の充血を起こすケースがあることはご承知でしょうし、微量に入っている水道水に対してさえもアレルギー反応を起こす体質の方がいらっしゃるようです。弊社取り扱いの製品で健康被害が発生したという事例はございませんが、全くのゼロリスクではないということもご理解いただく必要があるかと存じます。

専門家と称する人の中でも、このような万に一つあるかないかの稀な事例や可能性を挙げて、一切の使用を控えるべきだというようなゼロリスク論者が散見されます。そのような意見・主張も尊重すべきとは考えますが、そのような論者の多くは、同時にエタノール等 他の消毒剤・薬剤には触れず、こと次亜塩素酸水に関してのみ極論を発揮されていることが理解し難いところであります。

今回のNITEの中間報告を機に、多少の混乱した状況にはなってしまっていますが、これまでの積み上げられてきた数々の知見や専門家等の意見が出揃い、これによって次亜塩素酸水について正しい認知が広がり、消費者の方々の冷静で適切な選別、選択、使用につながれば望ましいかと考えております。

株式会社三協堂
鹿嶋利彦

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